京都大学医学部附属病院 iPS細胞臨床開発部 Division for iPS Cell Application Development

よくあるご質問

iPS細胞臨床開発部の業務は何ですか?
iPS細胞臨床開発部では、iPS細胞研究所(CiRA)との緊密な連携の下、大きく分類して、2つの業務を行います。1つは、患者さんから疾患iPS細胞を作成させて頂き、疾患研究、治療法開発へ発展させる業務、もう1つは、将来のiPS細胞を用いた再生医療を見据えて、その基盤となる健常人iPS細胞を作成し、それを保管・管理する細胞バンクに係る業務です。
疾患特異的iPS細胞とは何ですか?従来のiPS細胞と何が違うのですか?疾患特異的iPS細胞を用いてどのようなことが可能になるのですか?
京都大学ではiPS細胞技術を必要とするすべての難病疾患の患者さんからiPS細胞を作成することが京大医の倫理委員会で承認されており、いろいろな診療科の先生たちが取り組まれて、iPS細胞作りが始まっています。患者さんから作成したiPS細胞を疾患特異的iPS細胞と言います。この患者さん由来のiPS細胞は、従来の健常人から作成したiPS細胞と同様に、ほぼ無限に増え、様々な組織へと分化します。
一方、患者さんから作成したiPS細胞は、健常人から作成したiPS細胞と異なり、難病の症状を発現する組織に分化させた場合、その病態を試験管内で再現できることが期待されます。この数年の様々な研究で、それを実証する実験結果が蓄積されつつあります。その結果、難病の原因を詳しく解明することにより治療方法を見いだすことができます。それを用いて治療効果が期待できる薬剤の候補物質を探索することが可能となります。さらに、その候補薬が見い出された場合、その有効性、安全性について詳しく評価できます。この過程において、患者さんから症状を発現する組織を繰り返してご提供頂いて研究を進めるとすれば、患者さんに大きな負担をしいることになります。また、脳や心臓など、患者さんからご提供頂くことが不可能な組織があります。患者さんからiPS細胞を作成させて頂くことにより、それらの困難さが克服できます。
健常な人からiPS細胞を作成することによって、再生医療にどのように応用できるのですか?
iPS細胞作成には時間がかかるので、患者さんからiPS細胞を作り、その原因を直して治療に用いるには、とても間に合いません。しかも、医療費も非常に高額になります。費用と時間の面から、一つの方法として、血液バンクのようなiPS細胞バンクを設け、あらかじめ健康な人の細胞からiPS細胞を作っておく、さらには、例えば神経細胞などの移植用の細胞も作成しておく、ということが考えられます。血液型に相当するHLA型という細胞の型がありますが、HLA型各種のiPS細胞バンクを作ることが、時間の面からも、医療費の面からも有用であると考えます。iPS細胞臨床開発部およびCiRAとしては、患者さんご本人の細胞から作製したiPS細胞由来の組織を使う自家移植だけでなく、ご本人以外の人のiPS細胞由来の組織を使う他家移植の両方の研究、実用化を進めていきたいと考えています。このような目的のための健常人からの再生医療用iPS細胞を作成するためには、その安全性、有効性について十分に検討を重ねておくことが必要です。iPS細胞臨床開発部の品質管理技術開発室においては、CiRAと連携し、そのような業務を担当していきます。
iPS細胞臨床開発部が設立されることにより、患者さんに対しどのような利便性があるのですか?
まず、疾患特異的iPS細胞につて、ご説明させて頂きます。京都大学医の倫理委員会は、2008年6月、患者さんの細胞を用いた疾患特異的iPS細胞に関する研究計画を承認しました。この研究計画に基づき、多くの疾患特異的PS細胞の樹立を試みています。一方、社会においては、まだまだ多くの難病に苦しんでおられる患者さんがおられ、病気の克服に向けた取り組みが手つかずの状態である多くの難病が存在します。iPS細胞作成にご協力頂ける意思があり、かつ確実な臨床情報が付随してくる難病患者さんからは、iPS細胞臨床開発部を通してiPS細胞を作成させて頂き、病気の解明、治療法開発へと繋げたいと考えています。さらに、作成させて頂いた疾患特異的iPS細胞は、患者さんのご賛同があれば、公的細胞バンクへの寄託を視野に入れています。そうすることにより、世界中の多くの研究者が、この疾患特異的iPS細胞を研究に用いることができるようになり、より早く、病気の解明、治療方法の開発が行われることが期待されます。 一方、iPS細胞を用いた再生医療は、国内外を問わず、今のところまだ行われておりません。しかし、iPS細胞は再生医療の実現のための材料として有力な候補の1つですが、iPS細胞を用いるためには、iPS細胞に由来した組織を移植した場合の安全性や有効性など、まだまだ解決すべき問題が山積しています。多くの人の再生医療に用いるためには、多くの異なった種類のiPS細胞を準備しておくことが必要です。iPS細胞臨床開発部においては、これらの課題について、ひとつひとつ解決に向けて取り組んでいきます。
採取する細胞は、どのような患者さんのものでもよいのですか?
疾患特異的iPS細胞を作成させて頂く前提条件として、確実な臨床情報が付随してくることが必要です。これは、その後の病気の原因解明、治療法の開発のためには、不可欠の事項であるからです。現在の診療を受けられておられる医師から、症状、検査に関する情報をご提供頂き、判断させて頂くことになります。
細胞と提供する患者さんおよび健常人の個人情報(プライバシー)は守られるのですか?
細胞提供者である患者さんおよび健常人の方の個人情報(プライバシー)に関しては、京大病院の個人情報に対する取り扱いに準じて対応させて頂きますので、個人情報(プライバシー)は確実に保護されます。
iPS細胞を用いた臨床研究または治験の計画はあるのですか?
現時点で、iPS細胞を用いた臨床研究または治験の計画はありません。京都大学医学部附属病院等と協力して、パーキンソン病や血小板など、いくつかの臨床研究または治験の準備を進めています。臨床研究または治験を開始することになりましたら、ホームページ等でお知らせする予定です。
iPS細胞を用いた治療の今後の展望を教えて下さい。いつ頃、患者さんへの治療に結びつくのですか?
先述のように、多くの解決すべき課題がありますので、患者さんへの治療への応用については、現段階でいつ頃と申し上げられません。研究者は、できるだけ早い医療応用を目指して、研究を進めております。
研究を行う上で、倫理上の課題はありますか?
患者さんおよび健常人からiPS細胞を作成し、病気に関して研究したり、将来診療(治療)に用いるには、個人情報の保護、その内容に関して、あらかじめ倫理委員会で倫理的な問題に対して、十分に吟味しておいて頂く必要があります。iPS細胞臨床開発部では、あらかじめ倫理委員会で吟味し、承認を頂いた範囲内で業務を実施していきます。
iPS臨床開発部とiPS細胞研究所(CiRA)は、どのような関係ですか?
iPS細胞臨床開発部は、CiRAと密接な連携のもと、iPS細胞の臨床開発を行っていきます。iPS細胞外来には、倫理申請書で共同研究者として承認を受けた京大病院医師とiPS細胞研究所医師が、共同で外来業務を担当します。共同で業務をすることにより、円滑なiPS細胞作成、研究が可能となります。
京都大学以外の研究機関でも、患者の細胞からiPS細胞を樹立し、研究を行っているのですか?
はい、国内外の研究機関で患者さんのご協力を得て、疾患特異的iPS細胞に関する研究を実施しています。日本国内では、iPS細胞に関する公的プロジェクトが開始されており、その参加研究機関が様々な研究に取り組んでいます。
iPS細胞やその他幹細胞を用いた治療を行っている医療機関をインターネットで見かけました。安全性の問題はないのでしょうか?
iPS細胞は未だ研究の段階であり、加齢黄斑変性の臨床研究以外に、iPS細胞を用いて治療を行っている医療機関はありません。 日本においては、ES細胞(胚性幹細胞:embryonic stem cell)に関しても、ES細胞を用いて治療を行っている医療機関はありません。
一方、iPS細胞やES細胞のように、身体を構成するさまざまな細胞へと分化する幹細胞ではなく、体の中に存在する幹細胞(体性幹細胞)を用いた新しい治療法の開発は進んでいます。 体性幹細胞は分化できる細胞に限りがある(血液の幹細胞であれば血液にしかなれないなど)ことや、採取できる細胞数が少ないことなどから、どのような疾患にでも治療効果を発揮できるというわけではありません。 しかし、一部のインターネットサイトや出版物において、難病と呼ばれる幾つかの疾患から、生活習慣病と呼ばれる一般的な疾患に至るまで、読者が治療効果を 期待するような言葉を使い、体性幹細胞と称するものを用いて注射・点滴などを行う医療機関が国内外に見られます。 これらの行為は論文などによる治療効果や安全性の根拠に乏しいなど疑問点も少なくなく、安全性確保や患者保護に関する情報についてもほとんど開示されていません。 そのため、日本再生医療学会は不適切な幹細胞治療に関して注意を呼び掛けています。 幹細胞治療の受診を検討される際には、その治療が科学的根拠にもとづいて安全性が確認されており、公的機関による承認を得ているかの確認をされることをお勧めします。
また、国際幹細胞学会が、幹細胞および幹細胞治療についてよくある質問に対する回答を記載した「幹細胞治療について患者ハンドブック」を作製しており、WebサイトからPDFをダウンロードできます。 このハンドブックには、幹細胞治療を検討する際に最低限確認すべき項目があげられていますので、ご参照ください。 国内では、「再生医療等の安全性の確保等に関する法律」が2013年11月に成立し、幹細胞を用いた治療を担保する法整備が進んでいます。

日本再生医療学会声明文
「幹細胞治療について患者ハンドブック」(PDF)

再生医療用iPS細胞ストックとは?

CiRA再生医療用iPS細胞ストック(以下、iPS細胞ストック)とは?
HLAホモ接合体の細胞を持つ健康なボランティア(HLAホモドナー)の方の血液や皮膚などから、公益財団法人 京都大学iPS細胞研究財団(CiRA_F)内に設置されている細胞調製施設(FiT:Facility for iPS Cell Therapy)においてiPS細胞を作製し、保存する計画のことです。保存、即ち予めストックすることにより、品質の良いiPS細胞を国内外の医療機関や研究機関に迅速に提供することができます。
HLAってなんですか?
ヒトの主要組織適合遺伝子複合体であるヒト白血球型抗原(Human Leukocyte Antigen)の略で、細胞にとっての血液型のようなものです。HLAは、白血球だけでなく、ほぼすべての細胞と体液に分布していて、ヒトの免疫に関わる重要な分子として働いています。自身の持っている型と異なるHLA型の人から細胞や臓器の移植を受けると、体が『異物』と認識し、免疫拒絶反応が起こります。そのため、細胞や臓器を移植する際にはHLA型をできるだけ合わせることで、免疫拒絶反応を弱めることが重要です。
HLAは何種類くらいありますか?
血液中の赤血球の型はABO型の4種類のみですが、HLAの型は非常に多様でA座、B座,C座,DR座,DQ座,DP座などと呼ばれる種類があり、また、その「座」の中にそれぞれ数十種類の異なるタイプ(アリル)があるため、数万通りの組み合わせがあると言われています。私たちは、それぞれのHLA型について、両親から1つずつ受け継ぎ、受け継いだ2つの型が一対となって1つのHLAのセットを形成しています。ですから、自分と完全に一致するHLA型の人を見つけるのは、数百~数万人に1人の確率といわれ、とても大変です。
HLAホモとは?
父親と母親から同じHLA型を受け継いだ人を、「HLAホモ」の人と言います。例えば両親それぞれから受け継いだ2つのHLA型がAA、BB、CCのような場合を「HLAホモ」といい、細胞移植においては、AAであればABの人やACの人に移植しても拒絶反応が起こりにくいという利点があります。
iPS細胞ストックプロジェクトの目標は何ですか?
短期的なゴールは、日本人に一番多く見られる種類の(最頻度の)HLA型をもつHLAホモドナー数名からiPS細胞を作製することです。この最頻度のHLA型で日本人の約20%に対して拒絶反応の低い細胞移植治療が提供可能となります。長期的なゴールは、75種程度のHLA型のiPS細胞を作製することです。統計上、異なる75名のHLAホモドナーから、iPS細胞を作製することで日本人の約80%をカバーすることができます。
HLAホモドナーの公募をしているのですか?
再生医療用iPS細胞ストックは、HLAホモドナーの細胞から作製します。この度、京都大学で承認された研究計画では、まずは、京都大学医学部附属病院にて過去にHLA検査を実施された方のうち、日本人に多いHLA型をホモで有する健常者(HLAホモドナー)のリクルートを開始しています。
今後、その他の方法で、より広く公募することも検討しています。
どの様な体細胞からiPS細胞を樹立するのですか?
HLAホモドナーの血液(末梢血)または皮膚から、iPS細胞を樹立する予定です。また、臍帯血からのiPS細胞樹立も今後行っていく予定です。
iPS細胞ストックを構築するための資金はどうするのですか?
現在、国の公的資金より配分されている研究プロジェクトの研究費を使っており、iPS細胞ストック専用に研究費を頂いているわけではありません。iPS細胞ストック構築にかかる総額は、HLAホモドナーの方がどの程度、見つかるかによるところが大きいので、試算するのは困難です。
なぜ、さい帯血バンクや骨髄バンク等の公的バンクと連携をする必要があるのですか?
iPS細胞ストックを構築するためには、HLAホモの方を探しだす必要があります。Q5.で一部ふれております75名のHLAホモの方を探し出すためには、約6.4万人程度の方のHLA型を調べる必要があり、膨大なコストと時間が必要となります。一方で、さい帯血バンクや骨髄バンクなど、公的バンクでは登録時に移植医療用にHLA検査を行なっており、これらのバンクに登録している方は全国に多数います。仮に、これらのバンクにご協力いただくことが出来れば、より効率的にHLAホモドナーを探し出すことができ、迅速にiPS細胞ストックを構築できると考えられます。
移植治療用の公的バンクであるのに、目的外利用にはならないのですか?
例えば、臍帯血バンクに提供された臍帯血をiPS細胞ストックの作製に関する研究に活用することについて、特定の条件のもと、あくまでも研究目的で使用可能であると厚生労働省より通知が出されています。ただし、いずれのバンクでも、当初、提供者より取得した同意書の内容に、iPS細胞について一切触れられていないため、iPS細胞を移植医療に用いるためには今後早期の法整備が必要な状況です。
公的バンクに提供した組織やHLA型の情報は、提供者の同意を得ずに使われることはないのですか?
公的バンクが保有するHLA情報を使わせていただいたとしても、iPS細胞樹立に関しては、あくまでも、同意いただける提供者の方のみにご協力いただく方針です。すなわち提供者の自由意思で、iPS細胞ストックの作製にご協力いただく方針です。
公的バンクからiPS細胞が作製されるのはいつ頃からですか?
これまでに各種公的バンクに組織を提供した方から、『バンクに頂いたあなたの組織からiPS細胞を作製させてください。』というお願いについて、再度、同意を得られるかが最大の課題です。従って、現時点で、いつ頃から再生医療用iPS細胞の作製開始が可能になるかは言えませんが、各種公的バンクのご協力を得て、できるだけ早く開始することを希望しています。
京都大学医学部付属病院でiPS細胞ストックの作製をする研究が開始されたとありますが、具体的にはどういった研究をするのですか?
この研究は、将来、再生医療などで使用する、移植細胞のもととなるiPS細胞を作製し、それを保管(ストック)することを目的としています。まずはHLAホモドナーからiPS細胞を作製し、そのiPS細胞の安全性を確認することから開始します。
現在、考えられているiPS細胞を利用した再生医療では、治療に必要な目的の細胞をiPS細胞から分化させ、その細胞を移植する方法であり、iPS細胞そのものを移植することはありません。しかし、iPS細胞も、原料としてヒトの体内に移植しても『安全』であること、治療に『有効』な移植細胞を作製できることを確認する必要があるためです。
この研究に協力したいのですが、誰でも参加できますか?
この研究では、京都大学医学部附属病院を過去に受診した際に、HLA検査を実施した方の内、検査の結果、HLAホモであることが確認された方を対象としています。ですので、今から京大病院を受診してHLA検査を行っていただいても、現状、この研究にはご参加いただけません。
この研究で作製されたiPS細胞を患者さんに移植するのですか?
はい。この研究で作製されたiPS細胞から分化した目的とする細胞が移植される予定です。
いつ頃からiPS細胞ストックを治療に用いることができるようになるのですか?
5年以内に、このiPS細胞ストックを使用した臨床研究または臨床試験を開始することを目標としています。そこから、治療法として確立するには、移植しても安全であることや、治療に有効であることを文書にまとめて、国へ申請する必要があり、認められるまでに、数年はかかります。ですので、医療機関などで治療に用いられるには、現状からは、おおよそ10年はかかると予想されます。
iPS細胞ストックを作製すれば、どんな病気が治療できるのですか?
最も早期にiPS細胞をつかった臨床研究を実施すると期待されているのは、理化学研究所の髙橋政代先生による網膜色素変性症です。その他には、慶応義塾大学の岡野栄之先生による脊髄損傷や、京都大学iPS細胞研究所の髙橋淳先生によるパーキンソン病です。
我々は、目的とするどんな移植細胞にも分化しやすいiPS細胞ストックの作製を目標にしています。
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